センター長の瓜生原です。
ソーシャルマーケティングを用いて、「臓器提供意思表示」への行動変容を促進した事例を基盤として、ソーシャルマーケティングについて体系的に記述した著『行動科学でより良い社会をつくる-ソーシャルマーケティングによる社会課題の解決-』が第21回日本NPO学会賞・優秀賞を受賞しました。
この研究に関わってくださった150名を超える方々(「おわりに」に名前を挙げた方々)に御礼を申し上げます。
そして、皆でこの受賞を分かち合いたいと思います。
研究段階では、当センターの岡田彩先生のご協力、執筆段階では、藤平春加先生に多大なご協力を賜りました。本当にどうもありがとうございました。
お忙しいなか選考にあたってくださった先生方にも厚く御礼を申し上げます。
選考委員長の岡本仁宏先生から、丁寧なご講評頂きました。
研究の緻密さや学術的な評価に加え、臓器移植が社会問題であることに触れられ、「実践的で社会に役立っている」と評価してくださったことが、何よりも嬉しく、今までの苦労が報われた感謝に包まれました。
ソーシャルマーケティングを用いた社会課題の解決が評価されたことに、深く感謝し、ソーシャルマーケティングの普及に、一層尽力したいと思います。
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以下、個人的な思いも含め、記します。
『行動科学でより良い社会をつくる-ソーシャルマーケティングによる社会課題の解決-』
この本の研究は、1990年6月10日、ちょうど33年前の受賞の日から始まりました(運命を感じました・・・)。
製薬企業で研究開発を担当していた私は、自身が手掛けた薬剤を服用している患者さんとその親御さんに会う機会がありました。
その患者さんは、オーストラリア・ブリスベンで肝臓移植を受けた1歳の男の子でした。彼のお父様は、私とほぼ同い年で、海外で移植を受けるまでの苦労話をしてくださいました。最後に私の手をとって涙ながらにおっしゃいました。
「ありがとう。この子の命が救われ元気になったのも、あなたの薬のおかげです。この子が長生きしていつまでも私たちに笑いかけてくれるよう、頑張ってください。そして、海外にいかなくても移植を受けられる社会をつくってください。」と。
日本には、現在約16,000人の方が臓器移植を必要とされていますが、受けることができるのは、その約2%です。いたしかたなく渡航移植に踏み切る方々もいらっしゃいますが、様々な葛藤や苦労を抱えていらっしゃいます。
「日本で、必要な人が必要な時に移植医療を受けることができる社会」の構築に貢献したい、お父様との約束を果たしたい、・・・そんな使命感にかられ、45歳で研究者に転向し、全身全霊で研究に打ち込み、本書の執筆に向き合いました。
この本は、日本が抱える医療課題の一つ解決策を示す30年間の思いの集大成です。
同時に、研究を共に行ったり支えてくださった150名を超える方々の魂がこもった社会実装研究の集大成です。
(学生たちの思いは、以下のnoteをご覧ください。)
誠心誠意研究に打ち込むことができたのは、一緒に研究に没頭した約100名のゼミ生たち、導き支えてくださった方々のおかげに他なりません。心より感謝申し上げます。
2014年、同志社に着任した時、ソーシャルマーケティングを用いて学生たちとともに社会実装研究を行いながら、具体的な社会課題の解決を行うゼミを始めました。
“Share Your Value Project”というアクションリサーチプロジェクトを立ち上げ、次世代を担う学生たちとともに取り組みました。
一人一人が様々な社会課題に思いを馳せ、主体的に深く考えて行動し、その価値ある考えや行動を共有し(Share Your Value)、連鎖する社会を一緒に創りたいと思ったからです。
しかし、学生とともに社会で活動をすることは、周囲の理解、資金など多くの障壁があり、困難の連続でした。
右往左往する私を助けてくださり、学生たちに多くの助言をしてくださり、社会実装イベントなどには一緒に参加して支えてくださったのが岡田彩先生(当時・同志社大、現・東北大)です。
国際学会発表に挑戦するゼミ生たちに懇切丁寧に英語の指導をしていただいたこと、ギネス世界記録を達成した日に涙でくしゃくしゃになった笑顔で皆で喜んだこと、今でも鮮明に覚えています。
卓越した研究力と寛大なお人柄でゼミ生に接してくださる彩先生のことを、皆大好きで、尊敬しております。今でもその気持ちは変わりません。本当にありがとうございました。
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社会課題の解決へのアプローチは多様です。
本書は、様々な立場の人々のソーシャルグッドな「行動」の積み重ねが、課題解決に寄与すると主張するものです。
その基盤になるのが、「ソーシャルマーケティング」と、本研究から導出した「行動変容マネジメント」モデル(向社会行動のメカニズムと促進因子を普遍化したモデル)です。
本書では、第2章で、ソーシャルマーケティングの定義、概念、プロセスなど基本事項を詳細に述べ、第3章では、行動変容に有用性が高い17の行動科学理論とその応用について記しています。
さらに、第4章以降、行動変容を促す計画策定と実践方法について、実践例に基づき体系的に詳しく示しています。
第13・14章では、行動変容マネジメントモデルについて詳細に説明し、適用方法についても言及しています。
NPO、自治体、企業など社会課題の解決に向き合っていらっしゃる方々が施策を立案される時、ご活用いただければ、大変ありがたく思います。
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ソーシャルマーケティング研究センターのシンボルでもあり、本著の表紙にも登場する女神は、ドラクロワによってえがかれた「民衆を導く自由の女神」を模してあります。
本著に導かれ、人々がsocial goodな行動を増やしていくことを思い描いて、ゼミ1期生の佐藤(旧姓:田中)美穂さんがデザインしてくれました。
社会と関わる研究とは、常に問題の本質の解明に向けて大胆に挑戦しつつ、緻密に愚直に続けるものだと思います。
今の感謝の気持ちを深く胸に刻み、学術の進展、ソーシャルマーケティングの普及、そしてその先にあるより良い社会の構築に微力ながら貢献できるよう、一層の精進を重ねて参りたいと思います。
2023年6月10日
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